2017年8月25日、下記で紹介しているインドネシアの歴史コミック「Komando Rajawali」が出版社めこんから『インドネシア少年の抗日・対オランダ独立戦争』というタイトルで出版されました。紙媒体に限れば、インドネシアの漫画が日本で出版されるのは32年ぶりのことです。出版された漫画の内容に関しては、出版社のホームページ(リンク)を参照してください。【2017年8月30日追記】

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昨今のインドネシアにおいて日本軍政期は一体どのように捉えられているのだろうか。当ブログではこれまでに現地の歴史教科書、時事週刊誌、ネット掲示板などの翻訳(関連記事に関してはエントリー末尾のツイート参照)を通じてインドネシア側の見解を伝えてきたが、今回は新たにコミックという媒体からインドネシアにおける日本軍政期の描写を紹介してみたい。

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対象とする漫画は「Komando Rajawali(イーグル部隊)」と「Kisah Petualangan Bagas(少年バガスの冒険記)」の2作品。両作品ともにインドネシア独立革命期前後を舞台とし、日本軍政期、インドネシアの独立、対オランダ独立戦争を通じて、成長していく少年兵たちの姿を描いている。SF的要素の有無という違いはあるものの、基本的にはともに史実に基づいたフィクション作品になっている。


日本軍政期を描いた漫画作品はこれまでにインドネシアでも複数の作品が出版(例えば、上記ツイート参照)されてきたが、今回紹介する「Komando Rajawali」と「Kisah Petualangan Bagas」はともに2013年に出版が開始されており、その意味では近年のインドネシア人の歴史認識、とりわけ日本軍政期の捉え方を知る上で重要な作品であると言えるだろう。

それでは、以下に該当する部分を「日本兵」「労務者」「従軍慰安婦」「郷土義勇防衛軍」という4つのテーマに分類して紹介してみたい。なお、分類はあくまでも便宜的なものであり、作中の描写によっては複数のテーマが混在する場合がある。

※下記作品は日本語漫画とは逆で左から右に読む。

(1)「日本兵」の描写
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〝日本はインドネシアを搾取の対象とした。収穫や家畜は何もかもが戦争支援の名目で奪い取られた。石油、ゴム、石炭は戦費のためにかき集められた〟

〝父と兄は拉致され、ロームシャ(労務者)となった。彼らは飢えや病気の中で強制労働に就かされた〟

〝全ては日本の軍備強化のためだった。線路、橋、大通りなどが建設された。数十万人が飢えや虐待によって死亡した〟

〝人々は飢えていた。あらゆる場面で銃剣が取り出され、抵抗する者たちの腹を引き裂こうと待ち構えていた〟

〝我が祖国インドネシアの大地と血を絞り上げ、現地住民の命を犠牲にし、日本は自国のために戦争を行った〟
 
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1
〝独立を切望するインドネシアの民衆は日本軍の進駐をもろ手を挙げて歓迎した〟

〝なぜなら、日本軍はインドネシアの独立を約束していたからだ〟

2
〝しかし、独立の約束は単なるプロパガンダの手段に過ぎなかった〟

〝人々の暮らしはオランダ植民地時代よりもはるかに酷いものとなった〟

3
イ老人「やめてください、ダンナ様。これは私に残された唯一の...」

日本兵「どけ!」

4
イ青年「米を全て持っていかれたら、私たちは何を食べればいいのですか?どうかご慈悲を。このままでは飢え死にしてしまいます」

日本兵「ほお、そうか。これでお前は空腹の心配をすることもないな」(銃声が響き渡る)


(2)「労務者」の描写
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日本兵「サボるな!立て!仮病が通じると思うなよ!」

イ労務者「お許しを…お許しを…」

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〝ブリタルのPETA将校たちは南海岸で行われる労務者の作業を監視した。PETAの指導者、スプリヤディ小団長は自責の念に駆られていた。なぜPETAが自らの同胞と対峙しなければならないのだろうか、と〟

日本兵「バカヤロー!そこでくたばってろ、この怠け者が!」

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〝労務者は砂で要塞を築くために、海岸での強制労働を余儀なくされた。今日建てられた要塞は、翌日には潮に飲み込まれ消えていった。この様はあたかも集団虐殺の様相を呈していた〟

〝衰弱した者は、逆に殴られた。水は滅多に与えられず、食事に至っては望むべくもなかった。朝に病めば、昼には死に、昼に病めば、夜には命を落としていた〟

〝スプリヤディとPETAの同士たちは気が付いていた。いかなる犠牲が出ようとも、独立は奪い取らなければならないのだ、と〟


(3)「従軍慰安婦」の描写

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〝日の出前、日本軍は再び行動を起こした〟

日本兵「急げ。邪魔なものは全て破壊しろ。手あたり次第 持っていけ」

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〝日本兵が部屋に入った時、アイリンはまだぐっすりと眠っていた〟

〝隣の部屋でアホンが目を覚ました〟

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〝多くの生娘たちが日本兵にさらわれた。その後、何人もの少女たちが奴隷となった〟

18
日本兵「黙ってろ!」

〝アホンは目覚めると、姉を助けようとしたが、もはや手遅れだった…〟

19
日本兵「ゴキブリ野郎がいちいち歯向かいやがって。目につくものを根こそぎ持っていけ!」

〝日本は私たちインドネシア人の誰もを虐げた〟〝富める者、貧しい者、ジャワ、チナ、女性、男性、農民、商人、役人, 誰もが苦しんでいた〟

〝アホンは立ち上がろうとしたが、体は衰弱しきっていた。彼はそのまま意識を失った〟

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「Kisah Petualangan Bagas」第1巻の裏表紙には「Jugun Ianfu」という言葉が注釈なしで使用されている(英語版の表記は「"comfort women"」)。
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5
日本兵1「こいつは上玉だ」

日本兵2「おい、こいつは俺のものだ!」

イ女性「離して!」

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7
日本兵「生意気な!」(女性の頬を打つ)

8
イ男性「ふざけるな!」「女性に手を挙げやがって!」

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イ女性「プリヨ!止めて!」
 
日本兵「死にたいようだな!」「コノヤロー!」(イ男性を蹴り続ける)

11
イ女性「もうやめて!」「お許しください」「これ以上あの人を殴らないで。どんな命令にも従いますから」

日本兵「こいつを連れていけ!」(連行される女性)

12
イ男性「スリ…(女性の名前)」

日本兵「こいつ、殺っちまうか?」「俺にいい考えがある」

13
日本兵「こいつを連れていけ!」「ビルマでこき使ってやる」

※「Kisah Petualangan Bagas」第1巻裏表紙に書かれた従軍慰安婦は上記ツイートの描写を指している。

(4)郷土義勇防衛軍(PETA)
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〝日本は2年にわたって現地住民に軍事教練を施した。彼らは我々をPETAと呼んだ。これはインドネシアを独立に導く祖国防衛義勇軍である、と〟

〝日本の言葉は偽りだった。彼らはインドネシアの青年たちを太平洋戦争における盾にしようとしていた。日本のために命を捧げる。私たちはそう教え込まれた〟

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〝だが、我々も愚かではない。日本の奸計は我々にとっての輝かしい計画となった。我々はいまや自らの軍隊を持ったのだ。訓練を受けた勇敢かつ規律の取れた軍隊を〟

看板:我らの敵、米英を打倒せよ!

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「我々は日本の意図に反発した。PETAはインドネシア共和国軍、すなわちインドネシアの再侵略を企てる全ての民族を追い払うための軍隊となったのだ」

23
「PETAブリタル本部の現実はそれほど甘いものではなかった」

「PETA兵士は敬礼を行うことが義務付けられた。それは空車が通りすぎた際も同様だった」

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日本兵「ウマム義勇兵、なぜ敬礼をしない?」

イ人兵「なぜ敬礼を?将校はいません。車が通りすぎただけです」

日本兵「原住民風情が口答えする気か!」

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日本兵「これが日本帝国の車であることは知っているな。つまり、この車の階級はお前より上なんだ!」

イ人兵「私の名はスゲンです。人間はアッラーの創造物であり、その上に何かの物が存在することはありません」

日本兵「(腕立て伏せをさせながら)50回だ!途中で止まれば、むち打ちだぞ!」

イ人兵「今日は私の汗が流れ落ちる。だが、明日は流れ落ちるのはお前たちの血だ」

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〝PETAの軍事教練は想像を絶する厳しさだった。兵士たちは日の出前から駆け足を命じられた。そして、東方、すなわち天皇が治める地に向かって敬礼が行われた〟

〝その後も昼まで途切れることなく訓練は続けられた。整列、護衛術、そして戦闘〟

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〝少しで動きを誤れば、馬鹿野郎と罵声を浴びせられた。失言があれば、平手打ちが飛んできた。反抗的態度を取ろうものなら、ただちに食事も出ない独房へ入れられた〟

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〝訓練は厳しかった。だが、ペタ兵士たちの腹は常に空腹だった。朝食はわずか数粒のトウモロコシ。それすらもすでに乾き、硬くなっていた。〟

イ人兵士「これは何だ!この数か月、俺たちに与えられる食事といえば、具のないカンジ(タピオカの粉を糊状に溶かしたもの)ばかりじゃないか。俺たちの稲はどこだ?牧畜製品は?日本が全てを持ち去ったんだ!」

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日本兵「ソンコ義勇兵、机から降りろ!さもなければ、お前の頭を撃ち抜くぞ!」

イ人兵士「撃てるものなら撃ってみろ!だが、お前らが奪ったものを返すのが先だ!」

日本兵「(腕立て伏せをさせながら)身の程知らずのゴキブリ野郎が。何様のつもりだ?」

〝抵抗は拷問で終わりを迎えるのが常だった〟

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日本兵「恨むなら仲間の愚かさを恨むんだな!まだ盾突くヤツがいるなら、その首を皆の前でたたっ切るぞ!」

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〝サソンコは暗い独房に閉じ込められた。食べ物はなく、外部からは完全に遮断されていた〟

〝その後の彼の行方は誰一人として知る由もなかった〟

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【管理人コメント】

冒頭で記したように、当ブログではこれまでに様々な媒体からインドネシア側の見解を紹介してきました。今回紹介したテーマに関心がある方は、ぜひ以下の関連記事もご一読ください。