歴史の歪曲(レネ・L・パティラジャワネ)
コンパス紙(2015年9月2日10面)

9月3日木曜日、第二次世界大戦の枢軸・ファシスト国家(ドイツ、イタリア、日本) に対する中華人民共和国戦勝70周年記念式典が大規模な軍事パレードを伴って開催されたが、この行事は実権を握る中国共産党の扇動およびプロパガンダの一環として理解されるべきだろう。この大規模軍事パレードでは第二次世界大戦の終結よりも日本の降伏を祝うことに主眼が置かれていた。

今回 北京で開催された軍事パレードは「Kkangri Zhanzheng(抗日戦争)」および「Shijie Fan Faxisi Zhanzheng(世界反ファシズム戦争)」と呼ばれ、中国では戦勝記念日(V-Day)として祝われている。この日が戦勝記念日として祝われるようになったのは、1945年9月2日に日本が東京湾に停泊するアイオワ級高速戦艦ミズーリ号の甲板上で第二次世界大戦の降伏文書に調印して以降のことだ。

ミズーリ号での調印式に参加した中国―連合国の一員とみなされていた―の代表は徐永昌将軍と王之陸軍少将だった。彼らは南京に樹立された国民政府(蒋介石総統が率いる中国国民党)を代表していた。

徐将軍は当時、国防部部長を務めていた。その後、中国大陸での内戦で共産党に追い詰められた国民党軍が台湾へ逃れる前には国防大臣の職にあった。

こうした文脈を念頭に置けば、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が中国による「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利」記念式典にソフヤン・ジャリル国家開発企画大臣/国家開発企画庁長官を特使として派遣したことには違和感を覚える。憂慮すべきは、この決定が外交的に不適切(incorrect)なものであり、インドネシアがともに過剰な歴史の修正に組み込まれてしまうことにある。

具体的には、今日に至るまで、共産党-現在の中華人民共和国を代表する-軍や国民党-現在の台湾もしくは中華民国を代表する-軍が両者ともに抗日戦争に勝利したことを裏付ける歴史的資料は存在していない。中国の現代史では両陣営が日本軍を殲滅するために協力したと記されているが、同時に中国統治の正当性をめぐって、1927年から始まった内戦では互いに戦闘を繰り返してきた。

南京国民政府は1945年8月17日のインドネシア独立宣言を認めていない。同政府がインドネシア政府を認めたのは、1949年に主権が承認された後の事だった。国民党との戦いに勝利した後、毛沢東によって建国された中華人民共和国では共産党政権が誕生したが、同政権はインドネシアの独立を承認し、1950年にはジャカルタに代表団を派遣している。

現在行われている歴史の歪曲は少なくとも複数の要因に影響されたものだ。第一に、日本がアジア地域を占領した際に行った残虐な行為を理由に同国を押さえ込むこと。また、これまでに日本がアジア地域で果たしてきた現代的な役割を無きものにすることにある。中国の戦勝記念日に関しても盛大な軍事パレードを通じて中国の興隆を印象付ける狙いがある。

第二に、2015年9月3日の記念式典も安倍政権下でナショナリスティックな傾向を強める日本の軍国主義に対する政治的扇動およびプロパガンダを反映したものだ。中国と韓国を除けば、インドネシアを含めたアジア諸国の大半は日本占領期をさほど気にかけてはいない。日本は多くのアジア諸国にとって経済および貿易のパートナーとみなされている。

懸念すべきは、こうした70年前の歴史の修正が、アジア太平洋地域の地政学的変化に関する我々の戦略的思考を混乱させることにある。日中両国はともに政策の変更と軍事費の増加を通じて軍拡競争を行っている。こうした動きはこれまで我々が守ってきた平和、自由、そして中立的な地域を危機にさらすものである。

Kompas, 2 September 2015
Distorsi Sejarah (René L Pattiradjawane) 


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(↑上記コラムを執筆したレネ記者による2014年2月5日付けの時事コラム)
【抗日戦勝70周年式典】「中国は度重なる軍事力の誇示をやめよ」-コンパス紙社説(2015年9月5日)