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エジプト・カイロで演説を行う安倍首相

※2015年2月3日付けコンパス紙国際面より。本文の「イラクとシリアにおけるイスラム国」という表現は記事で使用されたインドネシア語の 「Negara Islam di Irak dan Suriah」(略称はNIIS)をそのまま翻訳したもの。略称の「NIIS」は訳文では便宜上、英語の「ISIS」とした。

日本人人質事件:安倍晋三首相とその攻撃的外交政策
コンパス(2015年2月3日)

日本の安倍晋三首相にとっては想定外のことだろう。先月1月17日にエジプト・カイロを訪問した際の演説が結果として、イラクおよびシリアにおけるイスラム国によって命を奪われた2人の日本人人質事件を招くこととなった。ましてや、首相はカイロでの演説において、預言者ムハンマドのハディース(言行録)から複数回にわたって引用していたにもかかわらず、だ。

日本の外務省が公表した演説の英語訳によれば、安倍首相は6回にわたって「ハイルル・ウムーリ・アウサトハー(中庸が最善)」という預言者の言行録を引用していた。加えて、この言葉は演説のタイトルにもなっていた。

安倍首相は演説において、3つの原則、すなわち共生と共栄(タアーイシュ)、協働(タアーウヌ)、和と寛容(タサームフ)を通じた日本の中東政策を強調した。これらのアラビア語は安倍首相の演説テキストに盛り込まれていたものだ。

しかし、日本では一部に、安倍首相の演説にはひとつの汚点があったと見る向きがある。それは安倍首相が演説で「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と強調した部分に関するものだ。

この表明を受けて、ISISは動画を通じて反応を見せた。彼らは誘拐した2人の日本人、民間軍事会社コントラクターの湯川遥菜氏(42)と戦場ジャーナリストの後藤健二氏(47)の命と引き換えに、演説で言及した金額と同額の身代金を要求した。

日本が要求を拒否すると、ISISは1月24日に湯川氏の首を刎ねた。その後、要求をヨルダンで収容中のイラク人死刑囚、サジダ・アル・リシャウィ氏との引き換えに変更したが、失敗。ISISはちょうど1週間後に後藤氏も処刑した。

「人質事件を宣伝するために今回の中東およびイスラエル歴訪が利用されたとなれば、それは安倍首相の失策となり得る」と日本大学の岩井奉信教授(政治学)はAFPに語った。

攻撃的外交

2012年末に政権を握って以来、安倍首相は攻撃的外交を展開してきた。首相は湾岸諸国を含めた50カ国以上を歴訪、同時に中国の影響力を抑えてきた。

安倍首相はまた、自衛隊の海外派遣を可能にするべく、日本国憲法第9条に代表される平和主義の解釈を修正したいとの野心を持つ。

今回の人質事件が、積極的外交政策を掲げる安倍首相が自らの野心を早急に実現するために利用されるとの見方もある。日本メディアは、日本政府はISISによる湯川および後藤氏の人質事件を11月中旬に把握していたと報道する。

週刊ポスト誌によれば、日本の外務大臣は当時、身代金交渉の最中であることを理由に人質事件を報道しないように求めたという。ISISとの交渉の機会は安倍首相の中東歴訪によって失われた(2014年1月31日付け『ジャパン・タイムズ』紙)。

湯川および後藤氏の処刑を受け、日本国民は今、もはや中東の過激派から免除された存在ではないことを認識した。日本人もまた過激派グループの標的になり得るのだ、と。

しかし、平和主義政策の変更を目指す安倍首相の野心は、過激派グループの脅迫から自国民の安全を保障することにつながるのだろうか。多くの人が懐疑的な見方を示している。安倍首相の行動は逆に日本国民をテロリストの攻撃にさらすリスクを拡大させ得るだろう。

Kompas, 3 Februari 2015
Krisis Sandera Jepang: Shinzo Abe dan Kebijakan Diplomasi Ofensifnys

【参考】(外務省ホームページ)
安倍総理大臣の中東政策スピーチ(中庸が最善:活力に満ち安定した中東へ 新たなページめくる日本とエジプト) 2015年1月17日 於・日エジプト経済合同委員会